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八辻が原の観相師 山手樹一郎「江戸名物からす堂」 [本]

11月11日(木)

 山手樹一郎「江戸名物からす堂」読了。
 訳あって、八辻が原に立つ大道占い師となったからす堂。
 腕も立つが得技は観相。つまり人相占いだ。
 そのアドバイスによって食事処兼居酒屋「たつみ」を譲り受けることになったのが、元深川芸者のお紺さん。
 ハンサムで頼りになる「からす堂」にぞっこんだが、当の「からす堂」はどこ吹く風。
 自らが仕える大名の死相を除くため、三年の間は女色を絶っているのだという。
 お紺さんにどうしてもと言われて「たつみ」で昼飯だけは食べていくようになるが、それ以上にはならない。
 年増盛り(二十五歳)のお紺さんにとっては、蛇の生殺しである。
 しかもこのお紺さん、嫉妬深くて妄想癖がある。
 勝手にあること無いこと想像して、最後には一人芝居みたいな声まで出すので、周りの人は驚いてしまう。
 「虹を掴む男」のウォルター・ミティーか、「湯屋番」の若旦那みたいなもんである。
 こんな愉快な二人のもとに、今日も事件がやってくる。
 それをからす堂が鋭い洞察力を観相で、ずばりずばりと解決していくというのが、大体のパターンである。
 最初は江戸版シャーロック・ホームズかと思うのだが、このからす堂、本当に人相を観る力を持っているらしい。とりついている霊のことなどもわかるようで、怪談話みたいなのもある。
 しかし全体として明るい後味が残るのは、ひとえにお紺さんのキャラクターゆえだろう。
 


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タイムスリップ・バンド物 かわぐちかいじ「僕はビートルズ」 [本]

2010年11月8日(月)

 休みだが、朝から何だか忙しい。
 それでも夕方には「銀次」だ。
 燗酒二本と、酢の物盛り合わせで1300円。
 帰りがけに本屋による。
 ネットによると「浮浪雲」と「BARレモンハート」の新刊が出ているようなのだ。
 しかしなんと、どちらも置いていない。いったい世の中は、どうなってしまったのだろう。
 そのときふと目に付いたのが、かわぐちかいじの「僕はビートルズ」。
 久しぶりに、かわぐちかいじでも読んでみるか。
 で、家に帰って読んでみると、これがとんでもない話。
 ビートルズのコピーバンドが、ビートルズデビュー前の世界に(といっても日本だけど)にタイムスリップし、ビートルズの曲を演奏したらどうなるか。
 しかもタイムスリップしたうちの一人、ポール役の鳩村真琴はそれを意図的にやっちゃおうというのだ。
 そうすれば本物のジョンやポール達は、別の曲を作らざるをえなくなる。つまり今まで聴いたことの無いビートルズの新曲が聴けるというわけ。
 なんて魅力的な設定だ。
 オリンピック開催3年前(1961年)の東京を描こうというのも意欲的。
 かわぐちかいじは1948年生まれ。東京オリンピックは1964年である。
 ビートルズのレコード・デビューが1962年。かわぐちかいじ14歳。来日した1966年で18歳。
 その時代を描くということは、自らの青春を描くことになる。
 原作は藤井哲夫と言う人だが、かわぐちかいじの意気込みも相当な物なのではないか。
 私自身は、中学生になった頃に解散しちゃったこともあり、ビートルズへ特別な思い入れは無い。しかし、その時代に対する興味はあるのだ。

 かわぐちかいじとの出会いは、狩撫麻礼と組んだ「ハード&ルーズ」。私は20代の後半から30代にかけてか。
 この間コンビニコミックで出たので、久しぶりに読み返したばかり。
 最初に読んでから20年以上たつことになる。
 世の中も変わるわけだ。


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動物寓話 西村寿行「捜神鬼」 [本]

10月28日(水)

 西村寿行「捜神鬼」読了。
 動物を題材にした短編集だ。
 年老いた漁師と、イルカか小型の鯨らしき生き物との交流を描いた「海獣鬼」。
 産卵のために海を目指す蟹を見守る少年と犬を描いた「妖獣鬼」。
 死ぬために北海道の番屋にやってきた女とそれを見守る動物達を描いた「聖獣鬼」の三篇が収められている。
 後ろに行くにつれてファンタジー色が強くなり、「聖獣鬼」にいたっては民話、説話の類みたい。

 一番良かったのは「妖獣鬼」。
 山奥から海を目指すのは、小さな蟹にとっては、命がけの大冒険なのである。

 大体、子供と犬の物語と言うだけで反則なのに、それが更に小さな生き物を守るというのが泣ける。 
 この子は天涯孤独で、蟹を見守ることで、一人で生きる力を得ようとしている。
 それは唯一の保護者であった爺さんが、おそらくそのように考えて言い残したことを実行しているだけなのだが。
 不思議なのは犬で、好奇心旺盛と言うか酔狂と言うか。蟹を守り、少年を助け、野犬の群れにも勇猛に突進してゆく。
 道路で立ち往生していた、この一行。それを助けたことで係わり合いになるトラック運転手も味である。
 昔なら、菅原文太の役柄だ。いや、愛川欽也の方がいいか。
 佐藤允でも田中邦衛でもいいけど。
 この作品が書かれたのが1970年代なので、どうしてもそのあたりが頭に浮かんでしまう。

 解説で北上次郎が、動物小説と言うものにこだわっているのも面白かった。
 西村寿行には、動物小説といえる物が案外少ないのだそうだ。
 そうかもしれないなあ。小説って、基本的に人間を描く物だものね。
 人間のまるで出てこない動物小説ってのも、読んでみたい気がするが。
 杉の巨木を主人公にした植物小説とか、大きな岩が山の上から川をたどり、やがて海へといたる鉱物小説なんてのもいい。

 渓谷を見晴らす崖の上に鎮座する巨岩を描く第一部が「ザ・ロック」。
 猛烈な嵐にあおられ崖を転げ落ち、川を転がる第二部が「ローリング・ストーン」だ。
 その巨体と硬度に物を言わせ、あたりかまわずなぎ倒し、しかし自らも少しずつ壊れていく「クラッシュ」。壊れながらもボスと行動する仲間達を描いた「ファミリーストーン」。と続く。
 転がり続けることに倦み疲れ、川原での静かな生活を送る石を描いた「地味篇」。本当に粉々になり泥水の一部となった「マディー・ウォーターズ」あたりは番外編だ。
 一方、ロック親分は旅の途中で意気投合したケイ酸塩鉱物のおケイさんと夫婦になり、海辺へとたどり着く。
 子宝にも恵まれ、幸せな日々を描く「ビーチボーイズ」。
 
この時代に自らの半生を綴ったのが、自伝「石の来歴」である。
 うーむ、何だかわからなくなってきた。

 


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あなたの知らない人 リチャード・マシスン「運命のボタン」 [本]

10月25日(月)

 リチャード・マシスンの短編集、「運命のボタン」読了。
 表題作の映画化にちなんでの出版だろう。「アイ・アム・レジェンド」とおんなじだ。
 どちらも、映画のほうは観ていないんだけど。
 普通に暮らす夫婦の元へ、小さな木箱が送り届けられる。
 その後見知らぬ男が訪れ、ある提案をする。
 その木箱についているボタンを押すと、世界のどこかであなたの知らない人間が死に、その見返りとして5万ドルが支払われる、と言うのだ。
 夫は馬鹿馬鹿しいと相手にしないが、妻はどうしても気になる様子。
 やがて・・・・・・と言うのが、その「運命のボタン」。
 うまいこと言ってやった的な落ちも含めて、喪黒福造が出てきそうな話。

 七人の美少女達がその超能力(魔法?)で敵の兵士達を殺戮しまくるダーク・ファンタジー「魔女戦線」なんてのもあるが、そのほとんどは、日常生活に忍び寄る恐怖を扱っている。
 ただ作者の興味は、登場人物が感じる不安や恐怖の感情といったところに有るようで、どの作品も落ちが弱い。
 一番うまく落ちたのは、ここに入っていないが「激突」かな。
 私が始めて読んだリチャード・マシスンの作品で、ミステリー・マガジンに載っていた。
 テレビ映画にもなっている。ご存知、スピルバーグ監督のデビュー作である。
 どっちも怖かったなあ。
 ちなみに最後に収められた「二万フィートの悪夢」も、スピルバーグ製作で映画化されている。劇場映画版「トワイライトゾーン/超次元の体験」の一篇だ。
 他の作品はすっかり忘れているが、これだけは覚えている。
 映画で観た時は、空の怪物が妙にユーモラスに感じたのだが、小説で読むと、ただもう怖い。
 そんなホラーばかりの中で、燦然と輝いているのが「四角い墓場」。
 タイトルからしてまたその手の物かと思ったら、これが近未来のハードボイルドSF。
 舞台は1997年のアメリカ。人間がボクシングをやることは禁じられ、ロボット同士が戦う競技になっている。
 この作品が発表されたのが1956年なので、近未来物なのである。
 ほとんどが、時代遅れのB2型ボクシングロボットのオーナーと整備士の会話で占められ、その雰囲気が素晴らしい。
 もちろん、クライマックスは試合のシーンだ。
 先ほどハードボイルドと書いたが、ヘミングウェイ風SFと言ったほうが伝わりやすいかな。
 「ミステリーゾーン」でもドラマ化され、出来も良かったようだ。
 現在、スピルバーグ、ゼメキスの製作で映画化も進行中で、来年末公開予定との事。
 楽しみなような、ちょっと怖いような。
  
 


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夜も夜半を過ぎて 安倍夜郎「深夜食堂 6」 [本]

10月20日(水)

 安倍夜郎の「深夜食堂 6」読了。
 待望の新刊だが、書店によっては置いていなかったりして、気がつくのが遅れた。
 舞台は、大都会(たぶん新宿)の片隅にある小さな大衆食堂。
 ちょうちんには「めし」、暖簾には「めしや」と書いてあるだけで、店名を書いた看板などは無い。
 営業時間は夜の12時から朝7時頃まで。と言うことで、人は「深夜食堂」と呼ぶ。
 顔に傷のある中年男が一人で切り盛りしている。
 壁の品書きにある食事は、豚汁定食(六百円)のみ。
 しかし頼めば大概の物は作ってくれる。
 ただし高級食材を使うような物は駄目で、要するに食堂や家庭料理の類である。
 もっとも材料を持ち込めば別で、今回は松茸の土瓶蒸しなんてのも作っちゃう。
 常連客は「よくもってたな、土瓶蒸しのいれもんなんて」とあきれるが、「たまにこんなこともあるからね」と、けろりとしているマスターである。
 このマスターの飄々とした感じが魅力なのだが、作品の中では名前も経歴も明らかにされない。
 ドラマはそこに集う、客のほうにある。
 いつもほのぼのハートウォーミングと言うわけではなくて、たまにはほろ苦い話も有るのだが、独特の絵柄がすべてを包み込んでしまう。
 作者の影響を受けた漫画家は、つげ義春に滝田ゆうらしい。
 滝田ゆう、か。名前も画風もなんとなく知ってはいるが、ちゃんと読んだこと無いな。
 ラズウェル細木の「酒のほそ道」でも、名前が挙がっていたっけ。
 そのうち読んでみよう。
 


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ウェスタンとソウル・ミュージックのはざ間 ジョージ・P・ペレケーノス「曇りなき正義」 [本]

10月17日(日)

 ジョージ・P・ペレケーノス「曇りなき正義」読了。
 ワシントンの黒人探偵、デレク・ストレンジが主人公のシリーズ、第一作目。
 ある非番の黒人警官が、パトロール中の白人警官に射殺されるという事件が起きる。
 なぜその黒人警官が射殺されたかと言うと、街角で白人に暴行し、通りかかった警官にも銃を向けてきたから。
 しかし黒人警官の母親は、息子のことを知っているだけに納得がいかず、デレクに調査を依頼する。
 射殺した側の白人警官テリー・クインはその後退職して、現在は書店で働いている。
 警察の調書ではその行為は正当な物として処理されており、デレクが本人に会っても一見事件性は見つけられない。
 それでも調べているうちに、じわりじわりとそこに何かがあることがわかってくる。
 デレクもテリーも元警察官で、ウェスタンが好きであることから、二人の間に友情のような物が生まれる。やがて行動をともにするようになるが、待ってたのは過酷な真実だった。
 最後は、東映映画のような雰囲気も漂う。作者は、現代のウェスタンのつもりで書いたとの事。
 激しやすいが、なんとか自分を抑制しようとするテリーが味だ。
 このキャラクターを作ったところで、勝負は勝ちである。
 主人公のデレクに関しては、まだキャラクターが固まっていないような気がした。
 テリーとの友情のきっかけとなるウェスタン趣味と、中盤に表明される昔のソウル・ミュージックへの偏愛がなんだか乖離している。
 これは作者の創造した登場人物が、話が進むにつれて勝手に動きだしっちゃったんではないだろうか。
 終盤近くに、またウェスタン・ミュージックが流れるが、これはテリーと二人だけで敵地に殴り込みをかけるという展開のための、作者の都合のような気がする。
 もっともデレクの若い頃を描いた「変わらぬ悲しみは」で、そのあたりの趣味は父親の影響であると説明はされているんだけど。
 あ、ここでのウェスタン・ミュージックと言うのはカントリー&ウェスタンのじゃあなくて、西部劇映画で流れる音楽のこと。
 「夕陽のガンマン」のサントラなど聴いているので、マカロニ・ウェスタンが好きなようだ。
 「夕陽のガンマン」の音楽は、エンニオ・モリコーネ。
 そういえば山田正紀が「帰り舟」の後書きで、この作品はマカロニ・ウェスタンを強く意識している、って書いていたっけ。そして読者の頭の中に、エンニオ・モリコーネの音楽が高らかに鳴りわたって欲しい、とも。
 山田正紀は、ペレケーノスに刺激を受けたのではないだろうか。


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本が読みたくなる 山田正紀・恩田陸「読書会」 [本]

10月15日(金)

 エッセイ十番勝負その八は、山田正紀・恩田陸の「読書会」。
 まあこれは対談集なんだけど、かたいこと言いっこ無し。
 特に山田正紀は、エッセイ集なんて出さないだろうからね。
 タイトル通り、あらかじめ決めた本を読んできて、それについて語り合うという物。
 これがもう、めっぽう面白い。
 とりあげている本は、半村良「石の血脈」「岬一郎の抵抗」、アイザック・アシモフ「鋼鉄都市」、アーシュラ・K・ル・グイン「ゲド戦記」、沼正三「家畜人ヤプー」、小松左京「果てしなき流れの果てに」、山田正紀「神狩り」、スティーヴン・キング「呪われた町」「ファイアースターター」萩尾望都「バルパラ異界」、恩田陸「常野物語」等。
 二人ともSF、ミステリー、ファンタジー、冒険アクションと、ジャンル横断方の作風なので、取り上げられている作品も多岐に渡っている。
 山田正紀がアシモフの2作品は初読なんてのも、それはそれで面白い。
 まあ、私自身「ゲド」も、「ヤプー」も、スティーヴン・キングも、アシモフも読んだことは無い。キングの「呪われた町」にいたっては、ハードカバーで買って数ページで放り出してしまう、というていたらく。
 しかし本書を楽しむには、あまりそういうことは関係が無かった。
 とはいえ、やはり本が読みたくなるのも事実。
 さて、なんにしようかなあ。


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軽演劇 小林信彦「昭和のまぼろし」 [本]

10月7日(木)

 エッセイ十番勝負 その七は、小林信彦「昭和のまぼろし」。
 2005年に週間文春に連載したエッセイをまとめた物。
 新潟大地震、小泉フィーバー、東京大空襲、集団疎開など扱う筆にも熱が入るが、映画とか、芸人のことなどが本来のフィールド。
 巻頭から「ミュージカル映画・ベスト10」「ケヴィン・スペーシーに脱帽」と、ミュージカル(もしくは音楽)映画ネタが続く。
 ケヴィン・スペーシーが往年のボビー・ダーリンにそっくり、なんてのは、やっぱりこういう年代の人が書くと説得力がある。

 舞台関係では「伊東四郎一座 再結成公演」について書いてあるのが興味深い。
 伊東四郎一座と言う名前であるが、この劇団の中心は三宅裕司である。
 その証拠に、伊東四郎が出られない時は「熱海五郎一座」として公演を続けている。
 しかし、その三宅裕司の劇団であるS・E・T(スーパー・エキセントリック・シアター)については、まるで触れていないのが不思議である。
 ともに東京人で、コメディーやポップスに愛着がある等、共通点は山ほどあるのに。
 「軽演劇」というものにこだわりがあるようなので、アクの強いS・E・Tの芝居は、興味の範囲外なのかもしれない。
 S・E・Tファンの私としては、舞台評など読んでみたいのだが。
 まあそれはそれとして、確かにあっけらかんとした軽演劇と言うのも観てみたい。
 話としては、下町人情軽ハードボイルドみたいな感じ。
 松田優作か内藤陳みたいな探偵が主人公。
 いつも酒びたりで、灰皿には吸殻が一杯。バックにはマイルス・デイビスが流れる。
 恋人はクラブ歌手。若作りしているが、別れた亭主との間に息子がいる。
 そこへ宍戸錠のような謎の男が現れて・・・てな具合。
 あ、これじゃあ軽演劇じゃないか。下町人情物でもないし。
 でもこんな感じの芝居を延々とやるような、小劇団って無いかな。
 下北沢じゃあ遠いから、出来れば野毛の「にぎわい座」あたりをホームにして。
 前にも似たようなことを書いたかもしれないが、気にしない、気にしない。


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姫の悲恋 山手樹一郎「浪人八景」 [本]

9月13日(月)

 山手樹一郎「浪人八景」読了。
 以下、ネタばれ。

 わけあって浪人の身となった比良雪太郎。
 そのわけとは、主家の姫君に惚れられちゃったから。
 まあ、お姫様と家来のカップルも無いわけじゃあないのだが、雪太郎はその辺融通が利かない。
 姫の縁談を機に、その気持ちを知り、身を引いたわけだ。
 しかし、そんな雪太郎も結局、姫の嫁ぎ先のお家騒動に巻き込まれてしまう。
 江戸へ向かう途中で知り合った愉快な仲間達と一緒に、後半は姫を守るてんやわんやの珍道中だ。
 私が書くと、いつもこんな感じになちゃうなあ。
 それはさておき、物語の核になるこの姫が、かなりうざい。
 芳紀16歳の可憐な美少女なのだが、後半はただ「雪、雪」とばかり言っているだけで、姫を守るために体を張っている周りの人間の苦労など、眼中に無い。
 雪太郎は、かつての主家の姫のためだから、いたし方ないとする。
 が、その仲間達は、まったくのおつきあいで参加しているのだ。
 しかもその仲間達、誰一人、姫の事を悪く言わない。
 ここいら辺の人の良さが、山手樹一郎である。
 みんなタフな大人なんだけど、計算高くなくて、自分の得にもならないことにも平気でつっこんでっちゃう。
 それは誰のためかというと、やはり人の良い雪太郎のため。
 人が人に及ぼす化学反応だ。
 山手樹一郎の長編を読むのは二冊目なんだが、おそらくみんなこんな感じなんじゃあないだろうか。
 ただ基になるトーンは一緒でも、物語の引き出しは結構ありそうだ。
 10月には代表作「江戸名物からす堂」も出るようで、そちらも速攻入手の予定だ。
 しかし、このコスミック・時代文庫というシリーズ、あっという間に書店から無くなってしまう。
 まあ大手から出ている本や、CDなんかもそういう傾向はあって、どうもこのペースには追いついていけないのである。
  


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あるロッカーの死 カール・ハイアセン「ロックンロール・ウイドー」 [本]

2010年8月24日(火)

 カール・ハイアセン「ロックンロール・ウイドー」読了。
 海外ミステリー十番勝負の中で衝撃だったのが、ペレケーノスと、このカール・ハイアセン。
 ファンにとっちゃあ、何を今さらだろうが。  
 ちなみに本書の原題は「BASKET CASE」で、解説では「ノイローゼ気味の変人」と言う意味のスラングらしい。
 それを「ロックンロール・ウイドー」にしたのは、なかなか気が利いている。
  

 著者始めての一人称小説とのこと。しかも、主人公は中年の新聞記者。
 ハイアセン自身が新聞記者だったこともあって、その辺は手馴れた感じ。
 ただ、その分、物の見方が一方的になる可能性がある.
 しかし、そこはコメディーが売りのハイアセン。
 主人公のジャック・タガーが、若死にノイローゼという設定にした。
 なぜそうなったかと言うと、意に反して新聞の死亡欄を担当させられているから。
 ジャックは、第一線の取材現場で活躍していたベテランだが、株主総会の場で、現在の経営者を批判してしまったのだ。そのため経営者であるレース・マガット三世の怒りを買い、閑職に押し込められてしまったのである。
 こじんまりとはしているが、真っ当な新聞社だったユニオン・タガー社。それを乗っ取った、レース・マガット三世は、取材記事より、広告の方が大事だと考える収益至上主義者なのである。
 そんな嫌がらせを受けながらも、なぜジャックが会社にいるかというと、やめないことで抵抗の意を表しているということらしい。
 てな状況にいるジャックが、あるロッカーの死に興味を持つことになる。
 そのロッカーはジミー・ストマといって、かつてはジミー&スラット・パピーズというバンドで世間の注目を集めたこともある。
 しかし最近はほとんど音楽活動をしておらず、ダイビング三昧の毎日だった様子。
 最近話題になったと言えばクリオ・リオという新進女性シンガーと結婚したことくらい。
 そのジミーが、ダイビングの最中に死亡した。

 ただそれは、事故死として処理されているのだが。
 未亡人であるクリオに取材したジャックは、何か釈然としない物を感じる。
 ジャックの妹のジャネットも、同様のよう。
 ということで、ジャックは上司の反対を押し切って、事件に首を突っ込むことになる。
 この上司というのがエマといって、上昇志向の強い若い女性。
 ジャックは彼女に気があるらしいが、前半はそのあたりはっきりしない。
 更に、別れた恋人の娘、カーラなんてのも出てくる。映画化されたらさぞや華やかな画面になるだろう。
 ただ奇人、変人がぞくぞく出てきた「復讐はお好き」に比べると、その辺は比較的おとなしめか。
 やはり、一人称ってえ形式が、何かを制限しているのかもしれない。
 その辺は、後何冊か読んでから、考えよう。


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