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本を読む 小松左京「結晶星団」泉昌之「かっこいいスキヤキ」 [本]

2018年9月30日(日)

 昨日、小松左京の短編SF「結晶星団」を読み終わった。
 読むのは何度目か。
 神話風の古典的な構造だ。
 「西遊記」の出だしみたいでもある。
 だけど今でもドキドキしながら読めるのは、小松左京の文章あってこそ。
 どこかアフリカを連想させる異星の描写が興味深い。
 本は同名の短編集ではなく「70年代日本SFベスト集成2」というアンソロジー。
 編者は筒井康隆。文庫の解説が山田正紀という豪華版だ。
 星新一、小松左京、筒井康隆、山野浩一、松本零士、豊田有恒、河野典生、荒巻義雄、藤本泉、小松左京というラインナップ。
 このころの日本SFは心のふるさとだ。
 音楽もそうだが、10代の頃に出会ったもの触れたものは、心に刻まれ一生ついて回る。
 たとえ当時読んでなくても、時代の空気というものがある。
 とはいえ段々読書もきつくなってきた。

 今はマンガか軽いエッセイぐらい。
 勢いにのって泉昌之の「かっこいいスキヤキ」を読み終わる。
 デビュー作「夜行」を含む初期作品集。扶桑社文庫。
 面白い、もっと若いうちに出会っていればなあという思いも。
 泉昌之というのは、マンガ家の泉晴紀と原作者の久住昌之の合成ペンネーム。
 久住昌之は「孤独のグルメ」の原作者でもある。
 こちらのマンガ家は谷口ジロー。
 今や、こちらの方が有名。
 谷口ジローは去年亡くなった。
 久住昌之は「孤独のグルメ」のエンディング・コーナー「ふらっとQUSUMI」で顔を見ることができる。

 
 

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こことはまた別の場所で ラズウェル細木「かすみやなびく」 [本]

2013年1月12日(土)

 連日寒い日が続いたが、今日は比較的暖かい。
 朝から、くしゃみ鼻水が出る。
 世間ではやっている風邪かもしれないし、花粉その他のアレルギーかもしれない。
 横須賀中央にスーツを取りに行く。
 今着ているのが擦り切れてきた。
 ワイシャツも、襟のあたりが擦り切れてきている。
 コートのボタンも、とれてしまった。
 靴のかかとも、すり減っている。
 使えば、みんな減っていく。
 サイズが合わなくなったり、自分で買ったくせになんとなく気に入らなくて着なくなったわけではないので、気は楽である。
 洋服を買うのは苦手で、いつも緊張する。
 こういうことは、さっさと済ませられる人間になりたい。

 その後病院やクリーニング屋などにも行き、昼飯は「麺屋こうじ」でジャージャー麺(750円)の中盛り。珍しく焼き餃子(320円)も付けた。
 さすが人気店。開店5分後にはカウンターが満席。10分後にはテーブル席も満席だ。
 ジャージャー麺だからか、餃子も付けたからか、中盛りを食べるのにちょっと手こずる。
 大食い、早食いの私にしては珍しい。
 今度から餃子をつける時は普通盛りにしよう。
 腹ごなしに衣笠のTSUTAYAまで歩く。
 天気も良く快適である。
 DVDをいくつか借り帰路に就く。
 よせばいいのに途中でアイスクリームを買う。
 空気の乾燥した冬に食べるアイスは美味いのである。
 自宅に帰りコーヒーをいれ、借りたDVDを観る。
 物は「ハンナ」。
 「みなと」のマスターが、ツイッターでほめていた。
 確かに面白い。
 雪におおわれた地の果てのような場所で、父親により人間兵器として育てられた女の子の話。
 しかし何のために。そして戦うべき相手とは。
 なんとなくありそうな話ではあるが、映画として良くできている。
 
 映画の後はビール(風飲料)を飲みながらオーティス・レディングを聴く。
 途中でバーボンに切り替え。
 この間までフォアローゼスを飲んでいたのだが、無くなってしまったのでかみさんの買ってきたワイルドターキー。
 甘いフォアローゼスに比べると、ワイルドターキーは辛口。
 ここの所女性ボーカルばかり聴いていたが、オーティスだけは別である。
 
 夕食後、寝転んでラズウェル細木の「かすみたなびく」を読む。
 「酒のほそ道」の登場人物の一人である三浦かすみを主人公にしたスピンオフ作品。
 「酒のほそ道」のかすみちゃんは主人公宗達の職場の後輩。
 よく一緒に飲みに行っているが、恋愛感情に関してはあいまいである。
 しかし「かすみたなびく」には宗達の影もない。
 明らかに不自然で、「酒のほそ道」とは別世界とみるべきだろう。

 いわゆるパラレルワールド物だ。
 だいたいあっちのかすみちゃんは、サバの味噌煮食べたさに一人で居酒屋に入ったりしないと思う。
 女の一人飲みにまつわる苦労話が大きな比重を占めていて、これが面白い。
 ちなみに巻末に4話収められた「かすみの一杯」は宗達のいる世界。
 整合性からすると、こちらは「酒のほそ道」に収めた方が良かったんじゃあないかな。

 ここまで書いてきて、いったい何の話か分からなくなっちゃった。
 まあ毎度のことだけど。
 とりあえず最後にきた「かすみたなびく」ということで。


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ブーメラン・ブーメラン ひじかた憂峰・たなか亜希夫「ネオ・ボーダー」 [本]

2012年11月12日(月)

 ここ数日、体がだるい。
 胃が重く、鼻がむずむずする。
 例年ひく風邪の症状に似ているが、あれよりはだいぶ軽い。
 花粉関係だろうか。
 昼飯は「麺屋こうじ」で鶏白湯わんたん麺(850円)。
 スープは鶏がらベースの白湯スープ。
 さっぱりとしていながら、こくがある。
 具材はチャーシュー、味玉、小松菜、きくらげ、赤紫の海藻(ふのり?)、それに当然ワンタン。
 ワンタンが熱い。
 それ以外は、おなじみの面々である。

 その後、平坂書房で「浮浪雲」と「かながわ定食紀行 もう一杯」を買う。
 
 帰り道は路地をのぞきながら歩く。
 気が付かないうちに結構店が変わっている。
 帰宅し本を読む。
 それぞれ面白い。

 夕食後、この間借りた「ネオ・ボーダー」を読む。
 原作 ひじかた憂峰。
 作画 たなか亜希夫。
 あの「ボーダー」を平安末期に甦らせた、という代物。
 ひじかた憂峰は狩撫麻礼である。
 これはいい。時代劇をやるとは思っていなかったが、らしさは満杯。
 問題は、たなか亜希夫だ。
 「ボーダー」の頃とだいぶ画風が違う。
 そんなことは「大川端探偵事務所」を読んでいればわかることだったが、あれは別作品だからなあ。
 と、なんだかぼやき気味だが、中身はすごいぞ。
 蜂須賀先輩はブーメランを操り、傀儡娘はAKBの歌を歌う。
 ライブだ、バイトだ、就活だと現代語が飛び交い、もう何が何だかわからない。
 それでも「のぼうの城」を観ていたので、違和感なく受け入れる自分が怖い。
 小さな世界を守り抜く「湯けむりスナイパー」とは対照的に、今後の展開がまるで読めない。
 本家「ボーダー」もそうだったが、あれ以上だ。


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藤色の靴下の行方 P・G・ウッドハウス「ジーヴスの事件簿」 [本]

7月9日(土)

 P・G・ウッドハウス「ジーヴスの事件簿」読了。
 20世紀のイギリスの上流階級を舞台に、間抜けなご主人バーティー・ウースターと、切れ者の執事ジーヴスが巻き起こす騒動を描くユーモア小説。
 「事件簿」なんてタイトルがついているから、てっきりシャーロック・ホームズのヴァリエーションみたいな物かと思っていたら、全然違う。
 殺人事件も、呪われた宝石も、謎の脅迫者も出てこない。
 もっと日常的な問題を、頭は良いが曲者のジーヴスが手の込んだ方法で解決していく。
 本来なら、バーティーがしっかりしていれば、問題にすらならないような事ばかりである。
 バーティーが独身の若者なので、縁談や恋愛関係が多い。

 この、ご主人がしっかりしていないというのが、ジーヴスにとっては重要。
 案外我の強いジーヴスは、馬を操る騎手のような気分なのである。
 服装などにもうるさくて、バーティーが好きなチェックのスーツや藤色の靴下など見ると眉をひそめ、いつの間にか処分してたりする。
 それはバーティーも気がついており、何とか自力で問題の解決を図ろうとする。
 しかし結局うまく行かず、ジーヴスに頼ることになる。
 いろんな方面に影響を与えていそうだ。
 このシリーズに限らず、ウッドハウスの作品ってのは英語圏の人たちには超有名らしい。
 ただ言葉の微妙なニュアンスみたいなものがあって、翻訳では面白さの全てを伝えることが、難しいようだ。 
 ユーモア物は、特にそうだろう。
 日本でも、例えば落語のサゲが現代の人間にはわからないなんて事がある。
 それでも良く出来た物は、やはり面白い。
 正直、解説を読むまでは、言葉のニュアンスうんぬんなど考えもしないで楽しんだ。
 近年、ウッドハウス人気が再燃しているとの事。
 これを機に日本でも、この手の軽妙なユーモア小説が書かれると良いな。

  


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飛び回るおじさん 椎名誠「トンカチからの伝言」 [本]

2011年6月29日(水)

 椎名誠「トンカチからの伝言」読了。
 いつもの通り、日本中及び世界中を駆け巡るおじさんの、身辺雑記である。
 今回気になったのは2つ。
 1つは、ダン・シモンズの「イリアム」を紹介している章。
 ダン・シモンズって読んだことは無いのだけれど、相当面白いらしい。
 椎名誠と言う人は、いまだにSF小説というものに思い入れや、こだわりがあるようだ。
 どちらかと言うと肉体派で、浜辺で野球などやっているイメージが強いので、このこだわりは意外な気がする。
 「ロード・オブ・ザ・リング」や「ゲド戦記」なども、みんなSFだ的な論法は、1970年代初頭かとツッコミたくなる。
 私も今でこそペレケーノスだの山手樹一郎だのと言っているが、その昔はSF少年だった時期があるのだ。
 星新一、小松左京、筒井康隆、半村良、山田正紀といったあたり。
 すでに星新一と半村良は故人である。
 まあ今でも恩田陸の「常野」シリーズなど読んだりしているが、やはり、たまに読む程度といった感じになっている。
 例えば、未来の異星を舞台にしたような物などは、食指が動かない。
 やはり日常とつながっている物の方が、心地よいわけだ。
 音楽もそう。
 ハードロックやプログレ、テクノなどには手が出ない。
 最近好く聴いているソウルやファンクも、打ち込みより、やはり人力演奏が良い。
   
 気になった2つ目。
 この本の後半から「一人座談会」という企画が現れる。
 あるテーマ(例えば「昔はこうだった」)にそっておじさんや、おばさんが語っていく。で、若い人が突っ込みを入れたりするのだが、そのうち古い人と言うのが現れてとんでもなく古いことを言い出し、ハチャメチャになっていくという趣向。
 東海林さだお+筒井康隆といった感じ。
 それほどあくは強くないのだが、なかなか面白い。
 作者本人も気に入っていたのだが、これが意外にも読者の受けが良くないとのこと。
 特に年配層には訳がわからないようで、今はやめちゃったらしい。
 うーむ。人間、年をとると、思考が跳躍しなくなってくるわけだなあ。
 私自身自覚があるだけに、考えさせられるものがある。
  


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にゅう・せんちゅりー 恩田陸「蒲公英草紙」 [本]

2011年6月25日(土)

 今日は鴨居で「007/ロシアより愛をこめて」を観る。
 世界征服をたくらむスペクターというグループがいて、東西陣営の間でうろちょろする話。
 で、標的になったのがイギリスの諜報部員、007ことジェームス・ボンド。
 ソ連の暗号解読器と美人をえさに、ボンドを引っ掛けちゃおうとたくらむ。
 世界征服という壮大な目的の割には、やっていることがせこいが、当人達はこれが頭の良いやり方だと信じている。
 イアン・フレミングの小説では、ソ連の諜報機関スメルシュとボンドとの戦いと言う構図のよう。
まあ、その方が自然だよね。
 世界征服をたくらむ謎の組織なんてのが現れたとたん、話が子供っぽくなる。
 顔を見せないNo1は、膝の上で猫など撫でたりして、その後のいろんな作品に影響を与えているような気がする。
 と、結構楽しんでいたのだが、なぜか途中で眠気と空腹感が襲ってくる。
 おかげで、ストーリーがわかんなくなっちゃった。
 何回か観ているから良いけど。

 映画の後、ラーメンを食べ、橋を渡る。
 鴨居駅と、ららぽーとの間には鶴見川が流れていて、川辺もきれいに整備されている。
 ここを下流に向かって歩こうかと思ったりもしたが、今日は天気予報が悪い。
 電車に乗り、本を読む。

 恩田陸の「蒲公英草紙」。
 恩田陸には、「常野」シリーズと言う不思議な力を持った一族の話がある。その中の一冊だ。
 前作の「光の帝国」は読んだことがあって、凄く面白かった。
 今度も、やはり良い。

 一人の女性が自分の子供時代を回想する形で、物語は語られる。
 舞台は、二十世紀初頭の東北の集落。
 県の南部で山を越えれば、すぐ福島。
 阿武隈川沿いの平野に位置する、比較的余裕のある農村地帯である。
 つまり県は宮城県と言うことになる。
 恩田陸は宮城県の生まれだから、そういう思い入れもあるのだろう。
 集落の中心は槙村家という地主で、代々優れた人材を輩出している。
 村の用水路や道路の整備。また学校や公会堂の建設までもが牧村家の財力によってなされている。
 槙村のお屋敷は、村を見渡せる小高い岡の上に建っている。
 語り手の峰子は、そのそばに住んでいる。
 父親は医者で、診療所は洋風建築。
 住まいの方は、日本家屋である。
 峰子は、その二つをつなぐ廊下の窓から、隣のお屋敷を眺めるのが好きだった。
 そんな峰子に、降ってわいたような話が持ちかけられる。
 槙村家には五人の子供が居て、末の娘が聡子。
 心臓が悪く、長いことは生きられないだろうと言われている。
 学校にも行けず、日がな一日部屋の中で暮らしている。
 したがって友達も居ない。
 そんな聡子の話相手になってもらいたいというのだ。
 峰子は聡子とは面識がなく、なんとなく億劫な気分。
 それに槙村家には、廣隆というやんちゃな少年が居る。
 この少年、何かにつけて蛙や蛇なんかをぶつけてきて、峰子は大の苦手なのだ。
 しかし医者である父の頼みであり、またみんな槙村家にはお世話になっているので、しぶしぶ引き受けることにする。
 そしてお屋敷に訪れた初日、早速現れたのは、やんちゃ坊主の廣隆。
 いきなり峰子のお下げ髪に紐を結びつける。
 その先には犬が。
 猛然と襲い掛かってくる犬。
 どうなる峰子。

 うーむ、要約しているだけで、ちょっと恥ずかしい。
 しかしここまででもわかるように、かなり昔の少年少女向けの物語の典型をなぞっているような話なのだ。
 この後、峰子と聡子の交友。そして不思議な雰囲気を漂わす春田一家の出現と続き、少しずつ物語は転がっていく。
 さらさらと流れる小川の水も、やがては怒涛の大瀑布みたいな展開に。
 この人は、こういうの書かせると本当に上手いなあ。
 「黒と茶の幻想」を読んで、訳がわからず以後敬遠していたが、少なくとも次の「エンドゲーム」ぐらいは、読まなくてはいけないな。

 ちなみに春田一家には「しまう」と言う能力があって、それは使命でもある。
 しかしある程度まで行くと「しまう」方も満タンになり、整理するために長い眠りにつく時期が訪れたりする。
 私は尋常の人間のなかでも、キャパが小さい方なので、ちょっと考えさせられる物がある。
 今日、映画館で襲ってきた猛烈な眠気は、つまりそういうことではなかったのかな。
 


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つかみはOK 山手樹一郎「雪の駕籠」 [本]

2011年6月19日(日)

 山手樹一郎「雪の駕籠」(春陽文庫)読了。
 山手樹一郎の小説は、そのほとんどが春陽文庫で出ている。
 しかしこの文庫、文字が小さくて後期おじさんには、きつい物がある。
 ただ、短編集の三冊だけが活字が大きい。
 その中の一冊。
 
 最初の「男の土俵」で、まずやられた。
 タイトルどおり、相撲取りの話。
 江戸の大関、稲妻政右衛門が故郷へ錦を飾るつもりで打った大坂の合併相撲。
 強くて格好良いので、初日から大人気だ。
 しかしここに、その人気を面白く思わない男が一人。
 つむじ曲がりで有名な堂島の米問屋の隠居、江州屋喜兵衛である。
 幇間の籐八に、稲妻関の横っつらを殴るように持ち掛ける。
 下手すりゃ殺されかねない話なので、びびる籐八。
 しかし大事な客の言うことだし、一殴り一両と言うのにもつられて引き受けることにする。
 やじうまの声援にこたえながら宿へと帰る稲妻の前に現れた籐八。
 酔ったふりをして絡み、2~3発殴りつける。
 さあ、はたしてどうなる籐八。
 この後、話は稲妻サイドに移り、実に山手樹一郎らしい展開になる。
 それも素晴らしいが、なんたってつかみが良い。
 物語ってのは、かくあるべきだ。
 これって相撲取りをボクサーにしたら、アメリカの話でもいけるよねえ。
 1930年代頃を舞台にして。
 出だしの部分だけなら、チャップリンの「街の火」、もしくは「キッド」のエピソードであっても、おかしくない。
 もちろん、チャップリンの役は籐八ね。
 マルクス・ブラザーズでも、いけるな。
 喜兵衛の役がグルーチョ。
 籐八はハーポ。
 チコは、その兄貴分。
 話のメインは稲妻と芸者の小信なのだが、こういうのもマルクス・ブラザーズの映画では定番だ。
 てな連想が働くように、山手樹一郎の小説は、どこかバタくさい。
 またペレケーノスを読んでいたときに、山手樹一郎を思い浮かべたのも、ゆえないことではないのだ。
 「男の土俵」の主人公は相撲取りだが、他の作品は浪人者が多い。
 そのあたりも、元警察官の私立探偵であるデレク・ストレンジに通じる物がある。

 例えば、タイトル作の「雪の駕籠」の主人公は親から勘当された武士の息子、山路鶴太郎。
 藤沢~戸塚間の冬の冬の夜道を一人歩いていると、木の影から現れた二十二、三の年増女(!)が現れて声をかける。
 「何者だね」と問いかける鶴太郎。
 「こうん、と鳴いたら、兄さん腰を抜かすかしら」と両の手できつねをこしらえる女。
 これも、良いつかみだねえ。
 ちょっと、星新一みたいだけど。
 こういうのも山手樹一郎の定番なのだ。
 旅は道連れになった二人は、男が道の途中でうずくまっているのに出会う。
 男のそばには若い田舎娘。
 二人は親子だ。
 しかしこんな時間に歩いているぐらいで、けして楽しい旅ではないようだ。
 立ち寄った宿では乱暴者など現われて、騒動になる。
 いつもだと、ここで鶴太郎が活躍してめでたし、めでたしとなるところ。
 しかし、ここで解決を図るのは女の方。
 まあ、悲しい結末ではあるんだけど。
 このあたりが、短編ならでは。
 超人的に強い主人公が、バッタバッタと敵をなぎ倒してめでたしめでたしでは無い魅力。
 最近の「浮浪雲」みたい。
 もっとも最近の「浮浪雲」は、もっと苦い話もあるけど。

 他の作品も軒並み素晴らしい。
 そういえばペレケーノスって、短編は書かないのかな。
 良い物、出来ると思うんだけど。
   


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丸腰探偵 ジョージ・P・ペレケーノス「魂よ眠れ」 [本]

6月14日(火)

 ジョージ・P・ペレケーノス「魂よ眠れ」読了。
 ワシントンDCの黒人探偵デレク・ストレンジ・シリーズ第3弾。
 前回のラストで逮捕されたギャングのボス、グランヴィル・オリヴァーは、現在も拘置所の中。
 
デレクがグランヴィルと面会するところから、話は始まる。
 おじ殺しの容疑で、つかまっているグランヴィル。
 政府は彼を死刑にすべく、特定の考えを持った陪審員団を編成。
 デレクはグランヴィルの過去に関する、個人的な思いもあり、弁護のために働いている。
 30年以上前にデレクは、グランヴィルの父親を殺しているらしい。
 そのため彼が道を誤ったのも、自分に責任があると考えている。
 このあたりは前作のラストでも触れられていて、前作と今作は一つながりである。
 もっともその詳細については結局今回も明らかにはされず、次回持ち越しという、もって回ったやり方。
 ちなみに今回は、別シリーズの主人公であるニック・ステファノスという探偵も出てきている。
 解説によると、他にも色々あるらしい。
 私はこのシリーズしか知らないので、どうにもピンとこないのだが。
 しかしこの手の趣向ってのは、作者は楽しいかもしれないが、読者にとっては厄介な気分にもなるんだよなあ。
 何せペレケーノスの過去の作品は、どんどん絶版になっているのだ。

 とはいえ話自体は、今回も面白かった。
 ゆるくつながっているとはいえ、一作ごとにテーマのような物があって、「曇りなき正義」では麻薬、「終わりなき孤独」ではティーンエイジャーの売春、そしてこの「魂よ眠れ」では銃器の問題がクローズアップされている。
 「終わりなき孤独」では、社会の暗部を弾劾するだけでなく、デレク自身が風俗通いをやめられない男という設定。
 で今回、自分の弱さを埋めるために銃に頼る男として描かれているのが、好漢テリー・クイン。
 しかし、デレクが風俗通いを克服して所帯を持つまでになったのに、テリーの場合は・・・。
 うーん、あれは無いよなあ。
 
 まあそれはさておき、私は次作の「変わらぬ哀しみは」を最初に読んで、そこからハマっていった。
 あれは時代も昔の話なので、不都合は無かったのだが、本来はやはり発表順に読むのが正解だ。
 ところが、既に二作目の「終わりなき孤独」は絶版。
 おそらく他の作品も、風前の灯だろう。
 一番最後まで残るのは「変わらぬ哀しみは」かな。
 そうこうしているうちに、電子書籍の時代がやってくるんだろうな。
 


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どこへ行くのかわからない 伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」 [本]

2011年5月21日(土)

 伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」読了。
 今をときめく人気作家の短編集。
 夜な夜な動物園に集まった男達が、シンリンオカミの檻の前に横たわっている男を見て想像をめぐらすのが「動物園のエンジン」。
 なぜか、チェスタトンを思い浮かべた。

 泥棒探偵黒沢が人探しに来て、山間の集落に伝わる奇妙な習俗にからむ「サクリファイス」。
 サクリファイスって何だと思ったら、いけにえのことだった。
 横溝正史と言うよりも、ドラマ「トリック」を思い浮かべた。

 昔、変わり者の作家が書いた言葉が売れないロックバンドの曲に盗用され、様々な人を救い、めぐりめぐって世界を救うというのが、表題作の「フィッシュストーリー」。
 フィッシュストリート言うのは、ほら話のことらしい。
 展開が読めず、鼻面を引きまわれている間に、すとんと終わっちゃう。

 最後の「ポテチ」は、小道具の使い方が上手い。
 ポテトチップスと「タッチ」でよくもこんな話を。
  
 この人の小説を読むのは初めて。
 つかみどころが無いような気もするが、面白かった。

 話は変わるが、三日前に缶ビールを3缶飲んだ。
 一昨日は2缶。
 昨日は1缶。
 そして今日はついにアルコール抜きだ。
 飲む量によって、明らかに体調が違うのである。
 食べる方はOKなので、日常生活に問題は無い。
 ただ、このブログが問題か。
 どうなることやら。


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アル中のガンマンは生き残れるか ギャビン・ライアル「深夜プラス1」 [本]

2011年5月18日(水)

 ギャビン・ライアル「深夜プラス1」読了。
 ハードボイルド~冒険小説と言うくくりの中じゃあ、間違いなくトップクラスの有名作品。
 私の中では「ロンツーは終わらない」「男たちは北へ」と続くロードノベルという流れで読んでみた。
 っていうか、「ロンツー」が出る前のタイミングで「深夜」と「男たち」の改版が書店に並んでいたのである。
 これって、たまたまじゃあないよね。

 まあ、それはそれとして「深夜プラス1」は面白かった。
 以下ちょっとネタばれ。

 主人公のルイス・ケインは、ビジネス・エージェント。
 かつてのレジスタンス仲間で、今はパリで弁護士をしているアンリ・メルランの依頼を受け、ある実業家をフランスからリヒテンシュタインまで送り届けることになる。
 やばい仕事のようで、ボディーガードとしてハーヴェイ・ロヴェルというアメリカ人もつけられる。
 ロヴェルはヨーロッパでは3本の指に入るガンマン。
 しかしやがて、アル中という問題を抱えていることがわかる。ボディーガードとしては、致命的である。
 仕事のために今は酒をたっているとはいえ、果たして彼らの運命やいかに、というお話。
 同じアル中でも「男たちは北へ」の主人公とは、だいぶ違う。
 あちら(桐沢)は酒が切れると発作がおきるが、こちら(ロヴェル)は、しばらくなら我慢が出来る。
 その代わり、飲み始めるとズブズブである。
 自分の中の弱い部分が、アルコールと直結しているのだ。
 普通はどこかで歯止めの利く部分が壊れちゃっている状態。
 ちなみに桐沢はアルコールさえ切れなければご機嫌なタフガイで、食事時にビールを飲むぐらいでOKである。
 アル中にも色々あるようだ。
 
 実を言うと、再読のつもりでいた。
 しかしあらためて読んでみて、前回は出だしの部分しか読んでいなかったことがわかった。
 海岸で、実業家マガンハルト一行と落ち合うあたりまで。
 全体的に作り物めいて悪夢の中をさまよっている感じが、肌に合わなかったのかもしれない。
 今は芝居がかった台詞回しも楽しめる。
 年とって、多少キャパが広くなったかな。
 


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