21世紀の大衆酒場 東神奈川「根岸家」 [横浜]
6月27日(月)
上大岡で「十二人の怒れる男」を観る。
1957年製作の傑作心理ドラマ。
スラムで起きた殺人事件。
容疑者は18歳の少年。
容疑は父親殺し。
十二人の陪審員達は、この事件を裁くために一室で議論する。
有罪が決まれば、被告は死刑である。
評決は、全員一致でなくてはならない。
これがミソだ。
証拠があり、複数の証人がいる。
少年自身も札付きのワルとみなされていたことから、誰もが簡単に決まるものと思っていた。
しかし一人の陪審員が、異議を唱える。
一見明白な事件のようだが、被告は18歳の少年だ。
スラムで毎日父親に殴られながら、生きてきた。
彼のためにも、もう少し話をしようと言うのである。
思いもかけない発言に、猛然と反発する人あり、その態度にまた反発する人あり。
議論は混沌としながら進んでいく。
犯罪や捜査、裁判といった物は題材で、やはり面白いのは密室で議論する男達の心理だ。
圧倒的な被告有罪説に単独切り込む陪審員No8。
一見ただのお人よしに見えて、話のもって行き方はなかなか巧妙である。
この場に挑むために色々考え、準備もしていたことがわかる。
対して有罪派をリードするのがNo3。
たたき上げの中小企業の社長。
ただの強引親父に見えるが、実は一人息子との間に確執があり、それが今回の話し合いにも影を落としている。
それと、もう一人の強引派であるNo10の発言が、次第に他の陪審員の反発を招いていく。
陪審員の中には、スラム出身の人間も居るのだ。
またこんな話し合いなどどうでもいいと思っている人間もいて、大した考えもなく寝返ったり、ふらふらしたり。
まあ、こんな大げさな物じゃあなくても、なにかを決めるための為の話し合いなら、毎日行われている。
だから「あ、居る居る、こんな人」といった楽しみ方も出来る訳だ。
これは映画なので、上手くまとめちゃっているが、現実にはもっとメガトン級に面白い人が居たりする。
描き方を変えればドタバタ喜劇にもできる題材で、筒井康隆や三谷幸喜にはそういう作品があるようだ。
これの酒場版、てのも考えられるな。
場所は下町の大衆酒場。
奥に座敷があって、今日は宴会が入っている。
集まったのは、職業や年齢はバラバラの十二人の男達。
会うのは今日が初めてだ。
それぞれは初対面だが、ある共通の人からの誘いでここに集まった。
それは小学校の頃の恩師。
実はみな子供の頃に問題を抱えていて、とても世話になった方である。
集めた本人はまだ来ておらず、伝言があって先に始めていてもらいたいとのこと。
ただしルールが一つ。
飲み食いする物は、全員一致で決めなくてはならない。
高校の教師だという男が、リーダー・シップを取ることになる。
まずは口開けの飲み物だ。
季節は盛夏。
メンバーは男ばかり。
これはもうビールしかないだろうと、誰もが思う。
しかし念のため投票をしようと言うことになる。
十一人の人間は速攻でビールを選ぶ。
しかしここにそれに異を唱える一人の人間が居た。
「本当にビールで良いのか」と、男は問いかける。
ざわつく十一人。
「どこにでもへそ曲がりは居る」
「暑いんだから、さっさと飲もうぜ」
「別に、みんなばらばらで良いじゃん」
「いや、それはいかん」
と、大変な騒ぎだ。
どうなる十二人。
おお、なんか面白そうだな。
真夏にビールにありつけないイライラが、こちらの喉まで乾かせそうだ。
これで、この記事はしめても良いのだが、今日は続きがある。
この後、職場で会議があるのだ。
そのまえに昼飯。
いつのも「味楽」は、なんと休み。
駅の裏側に回りこみ「王家菜館」で、焼きそばメインのランチセット。
焼売やマンゴープリンもついて、750円。
インパクトは無いが、いい感じ。
さくっと食べて、駅へ向かう。
職場での会議は、どちらかといえば説明会に近い物で、こちらもさくっと進む。
突然怒鳴りだしたり、妙なジョークを言ってみんなを戸惑わせる人間などいない。
フリーになったのは、午後の3時半ぐらい。
一杯やりたいが、時間が早い。
とりあえず関内駅に、ぶらぶら向かう。
やっぱり「とっちゃん」かなと思いながら、電車に乗る。
しかし鶴見まで行かずに、東神奈川駅で下車。
かつて「京急本線呑みある記」で訪れた仲木戸駅と東神奈川駅は、すぐ近く。
これは一昨日立ち寄り、確認していた。
で以前訪れた「立ち飲み 竜馬」のあるビルに早くからやっているやはり立ち飲みの焼き鳥屋があることも確認していたのだ。
店の前まで行くが、何だか焼き鳥の気分ではない。
で、以前ネットで、このあたりに早い時間からやっている大衆酒場のことを読んだことを思い出した。
名前は「根岸家」である。
ちょっと歩き回ったら、すぐみつかった。
「かなっくホール」のある真新しいビルの一階である。
入り口は、ガラスの自動ドア。
ウイーンと開けて中に入ると、右手がコの字型のカウンター。
左手はテーブル席だ。
カウンターの角に座る。
テーブル席もカウンターも、そこそこ客が居る。
カウンターの中には、女性が一人。
この人が、店を仕切っている感じ。
壁の上の方にある品書きを見て、まずはビンビール(キリン一番絞り 大瓶620円)を頼む。
お通しに、ところてんが出てきた。
つまみは枝豆(350円)と、タコぶつ切り(400円)。
奥が厨房になっていて、そこには何人かの男性の姿。
それ以外に女性が2人。
外に面した部分は、ガラス張り。
明るくて、一昔前のフルーツ・パーラーみたい。
色々張ってあったりして全て素通しではないが、それでも外は見える。
駅前は、いかにも再開発後といった感じで、がらんとしている。
この店も、いかにも再開発後のビルに昔からあった大衆酒場が入りました、というたたずまい。
前の店を知らないので、推測だけど。
しかし、これはこれで良い感じである。
入れ物は変わっても、人が長い間培った時間の堆積を引き継いでいるのではないか。
例えばカウンターの向こう、店の女性の前にはステンレス製のおでん鍋のようなものが有って、そこにはいくつかの徳利がつかっている。
で、たまに女性が温度をみて、取り出したりしている、。
そのお調子はどこかに出されるわけではなく、そのそばに置かれる。
燗酒の注文があれば、さっと出されるシステムだ。
おお、「銀次」と一緒じゃないか。
なんだか嬉しくなって、ビールの後は燗酒にした。
燗酒といえばすっとこれが出てくるが、おそらく壁の品書きにある金印(320円)だ。
もっと高い酒もいくつかあるが、このような店では一番安い酒が美味いはずだ。
案の定、いける。
酒飲みが、小さな幸せを感じる瞬間だ。
一合徳利なので、もう一本。
つまみに冷奴も頼む。
少しずつお客さんが入ってくるが、「銀次」みたいに満杯になることも無い。
良いなあ、この感じ。
5時近くまで飲んで、お勘定。
計 2250円
ラッシュになる前に、さっさと帰ろう。
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