時空を越えて 小松左京「時間エージェント」 [SF]
2011年8月10日(水)
日本SF界の巨人、小松左京氏が先日亡くなった。
享年80歳である。
私も、かつてはSF少年だった時期がある。
1960年代後半から70年代にかけての日本のSFは、なんだかわくわくする物があったのだ。
さらに椎名誠が、そのエッセイでダン・シモンズの「イリアム」をとりあげていたのにも刺激され、SFを一つのカテゴリーとして設けてみた。
小説だけではなく、マンガや映画もここで扱うつもり。
まずは、やはり小松左京。
と言っても、今や小松左京の本って書店では見かけないのだ。
今回読んだのは、ポプラ社文庫から出ている「時間エージェント」。
半分以上を、タイムパトロールを主人公にした連作短編シリーズがしめている。
昔このタイトルで、新潮文庫から出ていたっけ。
それはもう、とっくに絶版。
その後ハルキ文庫で氏の大半の作品が出されたが、なぜかこのシリーズだけは入っていなかった(はずだ)。
私が読むのも初めてである。
主人公は、ひょんなことからタイムパトロールの隊員になった青年。
基地は銀座並木通りの路地裏にあり、隊員はグラマー美女の所長と青年の二人きり。
なぜか所長は青年にほれている。なおかつ、そっち方面には積極的で、ちょっとエロチック・コメディーみたいなつくりになっている。
遠い未来にあるらしい本部からの指令で、主に時間犯罪者が引き起こすトラブルを解決するために飛び回ることになる。
しかし世界の危機を回避するために、タイムパトロール自身が自ら歴史の裏で暗躍することも。
でも良いのか、そんなことして。
それこそ歴史が変わっちゃうじゃあないか。
ここいらへんがタイムパトロール物の、わけのわからないところだ。
大体タイムトラベルが実現した段階で、歴史と言うものは変わらざるを得ないと思うのだが。
で、歴史に改変が加えられた段階で、時間は枝分かれし、改変のなかった世界と別の流れが続いていく、と言う考えが出てくる。
あらゆる可能性がある世界が平行して続いている、いわゆるパラレル・ワールドという奴だ。
しかし、それならタイムパトロールなんて必要ない気がする。
まあ、あまりそういうことにこだわらなければ、SFにとっては格好の題材であることは、確かだ。
今では、タイムトラベル(タイムスリップ)という手法は、一般的な作品にも使われているぐらい。
かわぐちかいじの「僕はビートルズ」なんてのもそうだし、他にも一杯ある。
で、この本に入っている他の作品も「時間物」かと言うと、そうではない。
ユーモア物、及びエロチックな物というくくりで集められているようだ。
なんだか無理やりな気もするが、個々の作品はそれぞれ楽しめる。
とはいえ、現代の若者の目にはどう写るんだろう。
ユーモア物もSFも、それが書かれた時代に影響を受けるために、時がたてば古びてくるのは否めない。(例えば「ケメ子」なんてえネーミング)
それでも残っていく作品も有れば、新たな光を放つ作品もあるわけで、その辺も探りながら行ってみたい。
ぼくが好きな作品は、戦争はなかった、です。
戦争はあった/多くの人々が死んだ/日本は敗けた。
空襲のさなか、小学生だったぼくの母親は、押入れにもぐりこみ、避難の荷造りを手伝わずにいて、あとでおおいに叱られたといっていました。
戦争はあった/多くの人々が死んだ/日本は敗けた。
おふくろは、死ぬ時は家族そろって、という理由で、疎開先のお寺から連れ戻されていました。
戦争はあった/多くの人々が死んだ/日本は敗けた。
そんな出来事を、彼女はこともなげに語ります。おふくろにとって、戦争は日常のひとこまだったようです。
戦争はあった/多くの人々が死んだ/日本は敗けた。
誰もが何かに適応します。
そして忘れてしまったとしても……
by 玉 (2011-08-20 17:26)
コメントありがとうございます、玉さん。
これを読んでから今持っているハルキ文庫を引っ張りだしてみたのですが、「戦争はなかった」は収録されていませんでした。
昔、読んだ記憶はあるのですが。
戦争を震災、もしくは原発事故と読み替えることも出来そうですね。
by 風車のダン吉 (2011-08-20 18:21)