酔っ払い北へ行く 風間一輝「男たちは北へ」 [本]
2011年4月25日(月)
風間一輝「男たちは北へ」読了。
1989年の作品。
一人の中年男が、東京から青森を目指して自転車をこぐ話。
途中、ヒッチハイクでやはり青森を目指す少年が現れ、ありゃと思う。
これは山田深夜の「ロンツーは終わらない」のまるで裏返しではないか。
「ロンツーは終わらない」が、この「男たちは北へ」を意識して書かれたことは知っていたが、それにしても・・・。
と思っていたら、自衛隊の秘密文書がらみの話がどんどん大きくなってきて、そちらはまるで別種の様相を示してくる。
話は自衛隊の緒方三等陸佐と、(自衛隊側から見れば)謎の中年男、桐沢の側から交互に描かれる。
しかも、それぞれに一人称という凝りようだ。
そのあたり何か仕掛けがあるのかなと思って読んでいくが、途中でそんなことはどうでもよくなってくる。
それぐらい桐沢の旅の様子が、いきいきと描かれている。
桐沢風太郎は、池袋の安アパートに仕事場を構える、しがないグラフィック・デザイナー。
所帯持ちだが、アル中。
アルコールが切れると、発作を起こしたりもする。
なぜそんな彼が、何日も仕事を休んで青森を目指すのか。
古い友人に関係があるらしいのだが、それも途中でどうでもよくなってくる。
カタカナ業界の人間の癖に小洒落たところが苦手で、安宿や大衆食堂ばかり入っている。
アル中なので、食事にはビールをつける。
最初の一杯はしびれるほど美味いが、大瓶だと多すぎて残しちゃったりする。
ウィスキーを携行しているが、行く先々では地酒を飲む。
強いアルコールがあればそれで良いというアル中とは訳が違うのだ。
しかも自転車で青森を目指すだけあって、かなりのタフネスでもある。
その桐沢の旅に自衛隊の話を絡めたのは、無理やりのような気もする。
これ時代小説だったら、すんなりと収まるのではないか。
北を目指す酒びたりの素浪人。
旅をする少年。
素浪人を狙う謎の一団。
その裏には某藩のお家騒動が絡んでいた、みたいな。
映画なら主人公は、もちろん近衛十四郎。
うーん、すっきりするけど、ありがちだな。
やはり、これを現代を舞台に描いたところに意味があるんだろう。
著者の風間一輝は1943年、中国東北部(旧満州)生まれ。
1999年、仙台で亡くなっている。
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