亀に栄えあれ カール・ハイアセン「幸運は誰に」 [本]
2月6日(日)
カール・ハイアセン「幸運は誰に」読了。
巨額の宝くじに当たった黒人女性と、やはり巨額の宝くじに当たった人種差別主義者と、黒人女性を取材に赴いた新聞記者と、その上司と、その妹夫婦と、その他色々おかしな者達が繰り広げる、てんやわんやの物語。
一応、主人公は新聞記者のトム・クローム。白人、長身、女にはもてる。既婚者だが、妻とは別れたがっている。
黒人女性ジョレイン・ラックスは元看護婦で、今は動物病院に勤めている。
男運が悪く、動物が好き。
人種差別主義者の首魁ボード・ギャザーは、悪いことすべて他人のせいにする性格。
例えば、自分の背が低いのは両親のせいだ、みたいな。
そのボードが自分の当たった分だけで満足していればいいものを、更に欲をかいたためにおこる騒動がメイン。
それ以外に、あれやこれやいろんな事がおこる。
まあいつものハイアセン節なのだが、今回はちょっと乗り切れない部分もあった。
主人公側は色々問題も有るが基本的に善人で、敵対する側は卑劣で愚かという構図が、何かパターンのような気がするのだ。
社会に一石を投じる記事を書くことが使命と信じる記者と、事なかれ主義の管理職ってのも、そうだ。
社会派ジャーナリストの主張を物語りにしてみました、みたいな感じ。
まあ途中で揺れ動く人間や、劇的に変化する人間もいて、楽しめるようにはなっているんだけど。
一番興味深かったのはレストラン「フーターズ」のウェイトレス、アンバー。
キム・ベイシンガーに似た美人ゆえ、騒動に巻き込まれてしまうのだが、度胸が据わっていて、ピンチにも動じない。
役から言うとかなり脇なんだけど、きらりと光る存在感がある。
彼女が動きだす後半は、なかなか楽しかった。
作者お得意の奇人、変人たちも沢山出てくる。
中でもダントツの奇人は、トムの上司のシンクレア。
最初に出てきた時は、記事の質など省みない事無かれ主義者の管理職。
それが途中で劇的に変貌する。
ただ、その後の話が本筋とほとんど絡まないままに進んでいくのがミソか。
消化不良だったのは、ジョレインに味方する幼馴染のモフィット。
この物語随一のタフで格好良いキャラクターなんだから、もうちょっと生かしようがあった気がする。
後半ジョレインたちがボードたちを追って、世間的には行方がわからなくなったあたり。あちこち突っつきまわして騒動を起こすとか。
その過程で、もう一つの敵である犯罪組織の資金洗浄係であるバーナード・スカイアーズと係わり合いになるとか。
そうすれば最後で、怒涛のクライマックスを迎えられたような気がする。
大体、敵が2組いて、それぞれ何にも係わり合いが無いってのも、すっきりしない原因だ。
所詮、トム、ジョレイン組は荒事にゃあ素人なんだから、武装した犯罪者と真っ向から渡り合うのは無理があるのだ。
大変貌したシンクレアも含め、ぐちゃぐちゃに入り混じって最後にドッカーンみたいな結末が私の好みなんだが。
しかし案外このとりとめの無さが、作者の持ち味かもしれない。
「復讐はお好き」のトカゲのエピソードだって、最後まで本筋と絡まないままに終わったし。
トカゲといえば「ロックンロール・ウィドー」の主人公も冷蔵庫に死んだトカゲを入れていたっけ。作中のバンド、ジミー&スラット・パピーズのアルバム・タイトルは「北アメリカの爬虫類と両生類」。
今作では亀をめぐる騒動が、どたばたと繰り広げられる。
その辺、何かこだわりがあるんだろうな。
最後に、気になった点をもう一つ。。
こりゃあ翻訳のほうの問題だが、ウォーレン・ジヴォンのことをゼヴォンって書いてある。
まあZevonだからゼヴォンと訳したくなる気持ちもわかるが、日本じゃあジヴォンが定着しているのだ。
有名人ではないにしても、カール・ハイアセンとは交流のあった重要なミュージシャンなのだから。誰かチェックできなかったのだろうか。
「ゼヴォンとは、俺のことかと、ジヴォン言い」なんてね。
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