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中年男の濃い一日 十条「斉藤酒場」 [東京]

10月25日(水)

まず、ダイエーで「16ブロック」。
ブルース・ウィリス主演の刑事アクション。
しかし、ブルースも老けた。
見方によっては中年男と言うより、老人に近い。
腹もタプタプだ。
ところがそのよれよれ男が、突如として鋭い動きをする。
格好良い。
同じ中年男として、感情移入できる。
主人公が足を痛めていると言う設定も、身に沁みる。
実は私も先日の丹沢歩きで、足がバリバリの筋肉痛なのだ。
平らな所を歩いているだけで、ずっこけそうになる。
とても鋭い動きなど、出来そうもない。
まことに情けない。

ちなみにブルースは1955年生まれ。
私より2歳年上だが、ほぼ同世代である。
私も周りから見ると、よれよれに見えるんだろうなあ。
実際、よれよれなんだが。

映画の後、ハンバーガーで昼食。
ハーボイルドな気分で、ビッグトリプルにする。
胃にもたれる。

京急から山手線へと乗り継ぎ、池袋へ。
SETの本公演「ナンバダ ワールド ダンシング」を観るのだ。
場所は東京芸術劇場。
池袋へ来るのは一年ぶりなので、出口を間違える。
なんてこった、足が痛いってのに。

肝心のSET。
今回は、ヒップホップダンサーを目指す、日本の若者の話。
ヒップホップをやりながらも、どうしても日本人特有の動きがでてしまうと悩む彼等。
手と足が一緒に出てしまう「ナンバ」の動きだ。
この辺、ちょっと無理がある。
ともかく、ヒップホップを極めるにはそのルーツを探らなくてはと、仲間とニューヨークへ行く。
ところが、以外にもヒップホップのルーツは、ジャマイカにあった。
レゲエからカリプソ、ルンバやサンバとたどってゆき、行き着いた先はアフリカ。
うーむ、懐かしい展開だ。
1980年代に洋楽を聞いていた人間には、心当たりがあるのではないか。

私もそうだった。
映画「ブルーブラザーズ」でブルースやソウルにはまり、やがてレゲエやカリプソ、ハイチの音楽等へと手を伸ばしていった。
行き着く先は、やはりアフリカ。
といったって、レコードを聴いていただけだけど。

当時アイランドが力を入れていたこともあって、キング・サニー・アデなどがずいぶんもてはやされていた。
ワールドミュージックって呼び方があったな。
日本でのピークは1985年。
代々木体育館でのキング・サニー・アデのライブ。
私も行った。
わー、なんだかすげーなーって感じだった。
だが、身にしっくりこなかったのも確か。
その後ワールドミュージックは、潮が引くように後退していく。
勿論それぞれの国では日常の音楽として聴かれ、日々進化もしてきたはずだ。
後退したのは「ワールドミュージック」という言葉である。

私はといえば、ワールドミュージックの後退とともに、アメリカ南部の音楽に興味を持つようになる。
テキサスとかニューオリンズとかの音楽だ。
テキサスからはダグ・ザーム。
ニューオリンズからはネヴィル・ブラザーズが来日。
今まで見たライブの中でも、1,2を争う良さだった。

ルーツミュージックなんて言葉も、あったように思う。
この場合は、アメリカのルーツ音楽だ。
カントリーとかブルースとかソウルとかに根ざした音楽。
ギンギラギンの80年代についていけなくなった人達が、飛びついたのではないか。
とはいえ、ダグ・サームにはメキシコ音楽。
ネヴィル・ブラザーズには、カリブ音楽の影響がある。
ある意味、ワールドミュージックからも入りやすい音楽だ。
もっともそれらはミュージシャンの実験精神から生まれたというより、テキサスなりニューオリンズなりの地理的なものが大きいようだ。
異国の音楽が、自然にその土地に根付いている。
だからこそ頭でっかちにならず、足腰からリズムが湧いてくるのではないか。

で、芝居に戻る。
ヒップホップの真髄を求め、アフリカまで行った主人公達。
しかしそこで彼等が気がついたもの。
それは、日本人である自らのルーツを大切にすべし、と言うことだった。
最後は、ヒップホップと和楽器のコラボレーションによる、ダンス大会。
今回は、プロのダンサーも大勢出演。
実に華やかなステージになった。
音楽は、サザンの野沢秀行。
脚本は、座付き作家の大沢直行。

音楽(特に黒人音楽)をめぐる壮大な物語。
参考文献のトップに、中村とうようの「大衆音楽の真実」が挙げられている。
なるほど。
だが正直、芝居としては硬い気もした。
風呂敷を広げすぎと言うか。
視点が、少し高いのではないか。

舞台を、おんぼろアパートあたりに限定したらどうだろう。
そこには、世界各国から日本に来た人達が住んでいる。
中には不法就労者もいる。
だが、実は世界の音楽の宝庫でもあった。
その狭くて広い世界の中で、ヒップホップダンサーを目指す主人公の若者が悩み成長していく。
なんてのはどうだ。
ワクワクするじゃないか。

まあ勝手なことを言うだけなら、簡単である。
実際に形にして、ステージに乗せるのが大変なのだ。
それを、何十年も続けている。
大変なことだ。
なんだかんだ良いながらSETの舞台を観ると感動するのは、そこにミュージカル・コメディーと言うものに対する愛情があるからだ。
借り物ではなく、しっかりとした自分達のものになったミュージカル・コメディー。
SETと同時代に生きられることを、喜びたい。

ただ、オグちゃんも年を取った。
もうバク転もできないようだ。
カーテンコールで、リクエストが出ても、コルセットを見せて断っていた。
三宅裕司からは「お客さんにパンツ見せてどうするんだ」って、つっこまれてたたけど。
オグチャン(小倉久寛)は、1954年生まれ。
ブルースよりも年上だ。
このあたりは濃い人が多い。
ちなみに、1956年生まれには桑田佳祐がいる。

芝居の後は酒。
池袋なら「ふくろ」もいいのだが、やはり「斉藤酒場」に行きたい。
埼京線に乗って2つ。
十条で下りる。
駅から下りて右手すぐ。
足が痛いので、駅から近いのが嬉しい。
一年ぶりだ。

店は、相変わらず混んでいる。
奥のテーブル席に案内される。
ここのテーブルは自然木の形を生かした、独特のもの。
殆どがテーブル席。
カウンターもあるが反対側にも座れるので、カウンター風テーブル席とでも言うべきものだ。

瓶ビール(サッポロ黒ラベル大瓶 470円)を頼む。
お通しは何だったかな。
セロリかなにか。
東京の古い大衆酒場には、サッポロビールが良く似合う。
大瓶ならば、更に良い。
私の周りにでているのは、全て黒ラベル。
しかし他のテーブルにはサッポロラガー(通称赤星)がでていたりする。
こちらも美しい。

ビールも外国から来た文化。
しかし、生活にしっかりと根付いている。
もはや日本人にとって、郷愁を感じる存在にすらなった。
蒸し暑い気候。
冷蔵庫の普及等の要因もあろう。
美味いビールを作る為に努力した人たち。
日本に普及させる為に頑張った人達の力もあろう。
ともかく大勢の人が愛してきた。
多様な外国のビールに比べて、個性が少ないといわれる日本のビール。
しかし、日本の食べ物に一番合うのも確かだ。
厳密には、北海道ではサッポロビール。
沖縄で呑むならば、オリオンビールが美味い。
その土地の気候風土や食べ物に、合っているんだろう。
てことは、恵比寿でエビスビールてのも美味いかもしれない。
今度試してみよう。
そういえば、浅草のアサヒビールの本社ビルの近くにあるビアホールにも、色々地ビールがあったなあ。
定番のビールがいつでも手軽に呑めて、その気になれば色々なビールも呑めるというのが、一番いいか。

今日の芝居がらみで言えば、日本人が外国の音楽をやるのも、外国生まれの音楽が日本に根付くにも、その音楽に対する愛情が一番なのではないか。
やる側にとっても、聴く側にとっても。
逆にそれがあれば、自然な形で根付くのだ。
ビールのように。

つまみに、しめ鯖(300円)。
このようなものにも、国産ビールならOK。
国産ビールにあわない日本の食べ物(但し酒のつまみ系)てのは、ちょっと考えられない。
しめ鯖の後は、カレーコロッケ(2ケ 200円)。
勿論ばっちりである。

カレーとコロッケ。
どちらも外国生まれだが、これまた日本人に愛されてきた。
もしかしたら、ビール以上かもしれない。
アメリカやヨーロッパに、果たしてカレーコロッケはあるのだろうか。
恐らく、日本独自の物なのではないか。
家庭で食べてよし。
酒場でつまんでよし。

さて、ビールも無くなった。
次は、チューハイ(250円)にしよう。
チューハイとは、焼酎ハイボール。
要するに炭酸割りだ。
ここにも、西洋と日本の融合がある。
それも、たいそうなものではなく、きわめて庶民的であるのが良い。

つまみには、肉豆腐(300円)。
江戸時代より前の人たちは、殆ど獣の肉を口にすることは無かっただろう。
それが、極めて和風な豆腐と組み合わせれている。
大衆酒場のつまみですら、一事が万事この調子。
他国の文化を消化吸収する人々の力は、それはたくましいものなのだ。

もうここらで次に移ってもいいのだが、どうにも去りがたい。
もうちょっと呑もう。
樽酒(230円)にイカの塩辛(200円)。
最後は、和風に決めてみた。
ああ、良い気持ちである。

ここはこれで〆るとして、さあどうする。
せっかくここまで出てきたのだから、バーにでも行こうかな。
でもどこにしよう。
何かもう満足しちゃった気もするなあ。
とりあえず、CDでも買うか。
それから考えよう。
マイナーなCDも、今ではインターネットで手に入る。
しかし昔は、わざわざ東京まで足を運んだんだよなあ。

ちなみに、酔っ払って合計金額は失念。
どちらにしても、たいした金額ではない。

埼京線で渋谷へ行く。
電車は混んでおらず、すぐ座れる。
ハチ公前のスクランブル交差点は、相変わらずの人ごみ。
外国人(白人)が、その様子をケータイのカメラで撮っている。
人ごみが珍しいのかな。
交差点を渡り、センター街へ。
ギンギラギンである。
同じ東京でも、十条とはだいぶ違う。
学生の頃から知っているが、もはや私の歩く場所ではないような気もする。
奥に進むにつれて、道が少しずつ狭くなっていく。
足を引きずりながら、酔いどれ1人街を行く。
時間的にはまだ早いので、やばい様子はないが。
突き当りを右へ。
少し行ったビルの階段を下りる。
そこにあるのがサムズ・レコードショップ。
黒人音楽の専門店だ。
ブルースやソウル系に強い。

さて、何を買おうかなあ。
ここの所、昔買ったCDを引っ張り出して聴いているので、買いたい物も幾つかあるのだ。
CDをパタパタやっていると、なんだか楽しい。
もっとも昔LPをパタパタやっていた時の方が、もっと楽しかったが。
果たして、CDで音楽を聴くという行為もいつまで残ることか。

おや、スウィンギン・バッパーズの新譜が出てる。
なんとブルース&ソウル・レコーズも、スウィンギン・バッパーズの特集だ。
日本人による、黒人音楽の吸収と言う今日の芝居のテーマにも、リンクする。
あわせて購入する。

さあこうなると、もうバーはいいや。
山手線で品川まで行く。
こちらもすいている。
座っていく。
でも京急は、そうは行かないだろう。
ウィング号の券を買う。
通常の料金プラス200円で、座って帰れるのだ。
しかも品川から上大岡までは、ノンストップ。
三浦半島に住む人間にとっては、画期的な電車だ。
まだ座ることにはさほど拘らなくても良いが、満員電車はどうにも苦手なのである。
昔横浜に勤めていた頃は、ラッシュ嫌さに一時間早く起きて、各駅で通っていたぐらいだ。
もっとも、いやおう無しに満員電車に乗らなくてはならない人達にとっては、何を言ってるんだという話だろうが。

ゆったりと座り、ブルース&ソウル・レコーズを読む。
とても面白い。
スィンギン・バッパーズのリーダーは、吾妻光良。
私はこの人の文章が、昔から好きだったのだ。
特にブラック・ミュージック・リヴューに書いていた頃は、夢中で読んでいた。
その当時、ずいぶん大人のような気がしていたが、今回読んだ所によると1956年生まれ。
私と1つしか違わない。
私が20代だった頃は、吾妻さんも20代だったのだ。
ううむ。
感慨深いものがある。

この調子で書いていくと、本当にキリがない。
今日はこの辺で。

しかし、相変わらずペース配分がなってないな。

前回訪問記事 2005年10月26日


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コメント 3

玉

 あー、楽しかった。夢中になって読みました。起き抜けだったのですが、目が覚めました。朝から良い気分にさせてもらいました。そこいらの評論を読むより、よっぽど面白い。好きなことを語るというのは、いいものですね。ダン吉さん、最高!
 さて、洗濯に行かなくちゃ。
by 玉 (2006-11-03 07:15) 

玉

 追伸。
 ぼくは最近、音楽を聴くのに、動画サイトを利用しています。ご存知かもしれませんが、YouTubeというやつです。珍しいものが、画像つきで見られます。
トムトムクラブやクラフトワークもありました。Pモデルなんて、いま見ても格好いい。どうぞお試しを。(知ったかぶりしてすみません)
 あああ、早く行かないと、ランドリーがこんでしまう。
by 玉 (2006-11-03 07:45) 

風車のダン吉

コメント有難うございます、玉さん。
励みになります。
おじさんの一日を、時間順に書いただけのものなんですが。
ご推察の通り、楽しんで書きました。
by 風車のダン吉 (2006-11-03 19:26) 

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