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泥酔帰路奇談  [その他]

昨日は、職場の飲み会。
衣笠のチャンコ屋で、呑み放題。
最初は用心していたのだが、そのうち冷酒をガンガン。
夏の冷酒は危険だと言いながら、大いに盛り上がる。
いつものパターンだ。
危ない危ない。

宴会の後は、ばらばらになる。
数人で横須賀線に乗り、JR横須賀駅へ。
駅前の「MILESTONE」に行く。
バーボンのコーク割など呑み、クールダウン。
もっともクールダウンと思ってはいても、コークハイだって危険な酒なのだ。
誰かが「今日はもう帰らないぞ」と叫んでいる。
危ない危ない。

「MILESTONE」でクールに決めた後、ヴェルニー公園を渡り汐入駅へ。
「港の灯りが、とてもきれいね横須賀」等と歌いながら、ぶらぶらと歩いていく。
危ない危ない。

汐入駅の近くで更に、一杯やる。
どこだかは、忘れた。
終電が近づき、ぐちゃぐちゃと清算する。
何とか京急に乗り、帰路に着く。
みんなとどうやって別れたかも、憶えていない。

電車に乗っていると、急に酔いが回ってくる。
いつの間にか、うとうとしていたらしい。
最寄り駅のアナウンスに、ハッと目を覚ます。
あわてて、ドアから飛び出した。
飛び出してから、息を整える。
駅での失敗は、もう懲りている。
身の回りの物を確認し、意識的にしっかりとした足取りで改札にむかう。

切符を引き抜く際、足元がふらつき思わず改札機につかまる。
どうした。
もう一度息を整える。
大丈夫。
家に向かって歩き出す。
まったく、酒が弱くなった。
これで、酒飲みブログなどやっているのだから、お笑い種だ。
もっとも、ガンガン呑むだけが酒ではないと、思ってはいる。
そう思ったからこそ、こんなことを始めたのではなっかたか。
そう、そのはずだったのだが。

私は、ゆっくりと歩いている。
今は、何時ぐらいなのだろう。
妙に人通りも、車の通りも少ない気がする。
歩き方が、ジグザグになっている。
立ち止まり、空を見上げる。
長かった梅雨が開け、星が見える。
これからしばらくは、暑い日が続くのだろう。
今はいいが、明日も仕事だ。
思いやられるなあ。

頭を振り歩き出そうとすると、目の前に紐が下がっている。
道の真ん中だ。
なんだろうと思って引っ張ってみると、カチリと音がして辺りが急に暗くなった。
あわてて、周りを見渡す。
どうやら、街灯が全て消えてしまったらしい。

昔から、目の前にボタンなどあると、つい押してしまいたくなるたちだ。
一度など、非常ベルのボタンを押してしまい、大騒ぎになったことがある。
勿論、今はそんなことはしない。

だが酔っ払って、たがが外れてしまったらしい。
馬鹿なことをしてしまった。
よりによって、街灯のスイッチを切るなんて。
それでなくても、ふらふら歩いている。
足元が暗くては、危ないではないか。

なぜこんな所に街灯のスイッチが有るのかは、不思議と頭に浮かんでこない。
とにかく、これを引っ張ったら消えたのだ。
ということは、もう一度引けば点くのではないか。
そう思い、私は紐を引いた。

するとまたカチリと音がして、更に周囲は暗くなった。
今度は街灯だけではなく、町中の灯りが消えてしまったようだ。
信号も、店のネオンも、窓から漏れる部屋の灯りも。
人工的な光、全てが。

目の前の紐を見る。
「何だ、これは」
上のほうを、見上げてみる。
紐の上方は、空高く消えている。
見上げた星空は、先ほどまでとは比べ物にならないぐらい輝きを増している。
山奥などに行かないと、見ることのできない光景だ。
月は半月にもう少し。
ああ、きれいだ。
しばし見とれる。

しかし、いつまでこうしてるわけにも行くまい。
蛍光灯のスイッチだって、三回引けば元に戻る。
とにかく、もう一回引っ張ってみよう。

また、カチリと音がした。
灯りが点くと思いきや、周囲が急に広くなる。
見渡せば、一面の野原に月光が降り注いでいる。
先ほどまでより、明るく感じる。
建物が消えてしまったのだ、ということに気がつく。
道も、車も無い。
遠くには、黒々とした山並み。
あれは森崎、あちらは衣笠山か。

人の気配も無い。
果てしなく広がる天と地の間に、私1人である。
ただ風だけが、草木の間を通り抜けていく。
風には潮の香り。
そういえば昔はこの近くまで海だったって話を、読んだことがある。
耳を澄ませば、波の音。
せせらぎの音も混じる。
平作川だろうか。

遠くで獣の声。
野犬か。
呼応するように別の場所からも、遠吠えがあがる。
長く夜空にこだまするその声は、犬というより狼を連想させる。
遠の昔に絶滅した日本狼。

私はぶるりと身震いし、あたりを見渡す。
動くものの気配は、感じられない。

不意に妙な衝動に駆られ、私は叫ぶ。
少し間があり、遠吠えが一つ。
私は、またも叫ぶ。
一つ二つと遠吠えの数は増え、やがて周囲を埋め尽くす。
「うるさい!」と私は叫び、紐を引く。
遠吠えの大合唱は、ぴたりとやむ。
静寂がよみがえる。
もはや潮騒の音も、風の音もしない。

更に紐を引く。
月が消える。
今まで観たことのない、凄い星空が現れる。
見上げていると、空全体がグルグルと私の周りを回っているように見える。

紐を引く。
満天の星が、全て消える。
闇の中に、私は取り残される。

紐を引く。
足元の地面が消え、果てしなく続く闇の中を私は落下していく。

落ちながら、なおも紐を引く。
最後に消えたのは、自分自身だ。

気がつくと、私は自宅にいる。
朝、寝床の中で目覚めた所だ。
ちゃんと、パジャマも着ている。
調べてみたが、体のどこにも傷は無い。
無事生還したようだ。

胃が少し重い。
だが頭は、痛くない。
それどころか、いつに無くすっきりしていることに、気がつくのだ。

※注 実在の地名、店名など出てきますが、これはフィクションです。
この日は、ちゃんと帰りました。
玉さんの挑発に乗り、妙なものを書いてしまった。
真面目に読まれた方がいたら、ごめんなさい。


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玉

 先日、京急のある駅から、電車に乗り込みました。シートの座って前をみると、目立つカップルがいます。
 男はつりあがったサングラスをし、黒っぽい背広を着ています。髪をうしろになでつけ、シャツの襟元を深くあけています。
 女は男にあわせたのでしょうか、やはり黒っぽいいでたちで、男と楽しそうに話しています。
 ぼくは怖い人たちに目をつけられやすいので、席を変わろうかと思いました。
 しかし女性のほうに、見覚えがあるのです。
 初恋の人でした。
 別れたのは、ぼくに原因があります。ぼくは何もわからず、彼女に頼ってばかりでした。
 迷惑をかけています。別れたって当然です。
 何もいえないのだけれど。
 ぼくは、席をたち、ホームに出ました。すぐに発車の合図があり、電車は駅を出ていきました。
 電車は、彼女は、ぼくの思い出は、行ってしまいました。
 ぼくは、泣かないように、気をつけなければなりません。
 
by 玉 (2006-08-09 23:40) 

さだ

秀逸。
だが、昼っから酒を飲んでる、今の私にはちと長い。
by さだ (2006-08-10 11:42) 

風車のダン吉

>玉さんへ。
こりゃまた、凄いコメントだなあ。
おまけに、こっちより上手いし。
要するに、こういうものを書けって事か。
おいらには、難しいと思うが。
by 風車のダン吉 (2006-08-10 20:16) 

風車のダン吉

>はじめまして、さださん。
コメント、有難うございます。
ちと長いと思われるのは量じゃなくて、文章の密度の問題ですね。
そのうちまたこのような小噺を書くかもしれませんが、もう少しましな物が出来ればと思っています。
by 風車のダン吉 (2006-08-10 20:35) 

玉

 手品の好きな中学生のことを、ぼくは知っています。
 同人誌の資金集めに、質屋を訪れた先輩のことを、ぼくは知っています。
 芝居の稽古で、歯を折った仲間のことを、ぼくは知っています。
 妻子を大切にする男のことを、ぼくは、よく知っています。
by 玉 (2006-08-10 22:18) 

楽笑

こんばんわ
先日、衣笠に用事があって、アーケード付近をうろつきました。
衣笠から、バスで中央駅まで行き、京急で横浜の「ホッピー仙人」まで行きました。
MILESTONEで、ダン吉さんとお会いできればと思ったのですが、
あいにく定休日でした(涙)

今月後半に、鎌倉に用事が出来たので横須賀に立ち寄ろうとは思ってます。
その時は、よろしく(笑)
by 楽笑 (2006-08-11 22:24) 

風車のダン吉

.>玉さんへ。
その辺りの話は、追々。
by 風車のダン吉 (2006-08-13 10:06) 

風車のダン吉

>楽笑さんへ。
この間、横須賀でフローズンホッピーを呑みました。
少しずつ、新しい展開も起きているようです。
by 風車のダン吉 (2006-08-13 10:39) 

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